私たちもそろそろです。

Provide by RIA Novosti

 大成功を収めたPRIDEラスベガス大会の余波は、遠くロシアの大地にも大きな影響を与えていた。皇帝エメリヤーエンコ・ヒョードルが想像以上にアメリカの格闘技ファンに支持されていたことも、ロシア総合格闘技界の成長を後押ししているはず。そこで、いま最も気になるロシアの現状を探ってみた。


 10・21PRIDEラスベガス大会の数日後、サンクトペテルブルグ市内の『レッドデビル』本部に連絡を入れると…。最大の売れっ子ファイターであるエメリヤーエンコ・ヒョードルがアメリカで快勝したとあって、スタッフはなんとも上機嫌だった。
 副社長のスタフニコフは言う。
「アメリカに多くのファンがいると確認できただけではありません。今、ロシアでも成功が見えてきています。ヒョードルは故郷の英雄であり、都心部でも多くの人間が最強と認識しているんです」
 レッドデビルは皇帝ヒョードルを中心に、ロシアを格闘技帝国にするべく、着々と普及を進めている。以前は、国内のマスコミが無関心だったため、自分たちからニュースを送っていたが、その甲斐あってか、テレビの特集番組も増えてきた。
「興行数も増え、シベリア地方にも及んでいます。空手やサンボの例に習い、総合格闘技でも、学校の設立を考えていきたいですね」
 ロシアでは、より大きな成功を求める習慣があるため、レッドデビルも他国からのビジネス交渉も大歓迎だという。最近は、ヒョードルの第二プロモーターとして、オランダのアピ・エクテル氏を招き入れた。
「相談やコンサルティングなど、幅広く手助けしてもらっている。逆にオランダの選手もこちらで扱うようになっていますしね。関係は非常によく、共栄・共存の強みを感じています」
 定期的に行なっている自主興行も好評だ。主にカジノで行われる大会では、ロシアはもちろん、アゼルバイジャンなどの旧ソ連圏からも多数のファイターが出場。『ロシアvs世界』の団体戦では、ブラジル勢の参戦が多く、ここでもライバル関係が構築され始めた感があった。
 また、インターバルではラウンドガールが毎回、一枚ずつ服を脱ぐなど、パフォーマンスも凝っている。時には絶世の美女たちが、そのままトップレスになることだってある。
「いくら人気が高まっているとは言え、PRIDEほどではありませんので、演出には大小問わず最大の気配りをしていこうと思っています」
もちろん、エメリヤーエンコ兄弟の紹介も欠かさない。ファイターたちの技術面も徐々にレベルアップしている。それを確信していたのは、皇帝ヒョードルだ。
「これらがロシア格闘技界の未来につながる。このように多くのファイターが参戦し始めたことを、私は大変喜ばしく思います」


素人(?)の観客もリングイン…!


 元々、ロシア人は闘うことを好み、国営ノーボスチ通信社の話によれば、「派手に喧嘩をして仲直りをしてしまおうとする傾向がある」らしい。レッドデビルの興行でも、それを利用するような試みがあったという。
以前の大会で、プログラムがワンデイトーナメント準決勝まで進められたときのこと。巻き舌がサマになるリングアナが呼びかけた。
「ただ今から飛び入り参加のボクシングマッチを開催します!腕っぷしに自信のあるお客様はリングサイドまでお集まり下さい!」
すると、客席から何人もの男が次々と立ち上がり、リングの周辺へ集まった。危険は間違いない。しかしあの雰囲気で、アルコール混じりのギャンブラーたちを誘えば、当然、闘争心が抑えられなくなる。ドクターは常時待機しており、それなりの(?)注意は払っているようだが…。
 いろいろな意味で緊張感が違った。大きめのグローブではあるものの、ジーパンに上半身裸の男たちが、ぎこちないボクシングで乱打戦を展開する。さらに、小柄なロシア人が体格のいい大男をノックアウトし、会場の盛り上がりがヒートアップした。
 ボクシングの話を付け加えると、ロシアでは現在、身長213cmのWBA世界ヘビー級王者ニコライ・ワルーエフが抜群の人気を博している。ルックス面や大味な動きがボブサップに通ずる人気もあるらしく、格闘技を好まない女性すら、試合観戦に積極的なのだ。
さらにプロボクシングのヘビー級では、旧ソ連圏勢がメジャー団体の世界タイトル独占。IBFをウラジミール・クリチコ(ウクライナ)、WBOをセルゲイ・リャコビッチ(ベラルーシ)、そして先日WBCの王座にオレグ・マスカエフ(カザフスタン)が奪取した。アマチュアボクシング界のエリート国は、プロにも本格的な殴りこみをかけてきた。
 この状況の中でロシア総合格闘技界は、どういう形で参入をしていくかも鍵だ。行き着く先は、共存か競合か。その答えは、レッドデビルの方針にも大きく左右されそうだ。
かつて世界の政治を二分したアメリカでも、巨大マーケットが構築されようとしている。ロシアはアマチュアスポーツが根強き国で、プロ格闘技界では、一部の猛者たちが、一足早い冬眠を終えたばかり。今後、季節が春へ、夏へと移り変わる時代が来るのなら、現在のプロボクシング界のように、映画『ロッキー4』のドラゴをリアルに量産してしまう可能性もある。アマチュアスポーツ界では、シベリアの永久凍土のように固く分厚い層を築いてあるのだ。
 スタフニコフ氏は言った。
「我々は日本に行ったとき、PRIDE会場の盛り上がりに大きな夢を感じた。私たちもそろそろですよ」

(『格闘技通信』2006年12月8日号より)




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